辻 仁成の"パリ・スープ"

とっても美味しいタイのスープを教えてくれたのは、ベトナム人のファンさんでした。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんにやさしいご馳走である“パリ・スープ”のレシピです。

ファンさんとトム・カー・ガイのこと

ベトナムレストランを経営するファンさんとの出会いは強烈だった。小柄でニヒルに微笑んでいるのだけど目は笑ってない。「俺がサルコジ大統領誕生の、フランスにおけるアジア票を取りまとめたんだ」と豪語しながら、壁にかかるサルコジ氏との2ショット写真を説明したのがぼくとファンさんとの出会いであった。本人曰く、サルコジ大統領を当選に導いたベトナム系フランス人なのだった。サルコジとの写真のその横にはシラク大統領との2ショットもあった。実に胡散臭い。ぼくでも知るようなフランスの歴代の政治家、映画俳優たちとの2ショット写真が壁を占拠し、タダモノではない感が半端なかった。頑固で、怪しくて、でも、不敵で、不思議なおじいさんだった。

そのファンさん、当然ベトナム料理が専門なのだけど、店には、何種類かタイ料理も置いてある。フランス人はタイ料理が好きな人が多いのだが、実は中華系やベトナム系ほどタイ人はいない。フランスはベトナムの宗主国だったので、ファンさんはベトナム戦争前にフランスに亡命してきた一族の出で、彼曰く、「貴族だった」らしい。政治家を目指すのだけど、言葉の問題、国籍の問題で叶わず、一時は亡命ベトナム人たちの取りまとめ役などをしながら与党関連の仕事をしていたのだとか。

中国人にも顔が広い。パリには二つの大きな中華街があり、ベトナム系もここでは結構大きな勢力を保持している。タイ人が少ないので、本格的なタイ人経営のレストランは数えるほどしかない。でも、タイ料理が昨今人気になってきたこともあり、常連の政治家からの要請で、ファンさんは独自に研究をし、なんちゃってトム・カー・ガイを開発した。これが思わぬ大ヒットとなり、メニューに正式に加わることになったのだ。

「トム(煮る)・ヤム(混ぜる)・クン(海老)」といえば、タイのピリ辛酸っぱいスープで有名だが、それに負けないほどに有名なのが、トム(煮る)・カー(生姜)・ガイ(チキン)だ。トム・カー・ガイはトム・ヤム・クンのように辛くない。ココナッツミルクベースのまろやかなスープである。フランス人は辛いのが苦手な人が多いので、このトム・カー・ガイの方が受けがいい。ファンさんはそこに目を付けた。

「ファンさん、これ、タイ料理でしょ」と言ったら、ファンさん、笑顔でウインクをしてきた。「サルコジを勝たせたのに、あいつは俺たちの期待には応えてくれなかった。俺たちは大いに失望したんだ。あれから政治とか関わらなくなった」と話しを逸らされてしまった。しかし、間違いなく、この胡散臭いファンさんは一冊の小説が書けるほど魅力的で面白い人物であった。そして、トム・カー・ガイはタイ料理というよりもファンさんの歴史を辿るような、したたかで、甘く、辛く、ほんのりセンチメントな、パリ=ベトナム風のスープなのである。本日は、ファンさん直伝の「なんちゃってパリカーガイ」をお届けする。しかし、これはマジで美味い! 暑い夏には最高のスープなのだ、お試しあれ。

トム・カー・ガイ(Tom Kha Gai)のつくり方

材料材料

ココナッツミルク400ml(1缶)
鶏むね肉200g
レモングラス1本
生姜4枚(輪切り)
生唐辛子2本
ヤングコーン6本
ズッキーニ1本
ゆで海老8尾
ライム1/2個
ナンプラー大さじ1
砂糖小さじ2(あればココナッツシュガー)
鶏がらスープ小さじ1
1カップ
パクチー(飾り用)
バジル(飾り用)

1ココットを火にかける

ココットにココナッツミルク、パン切り包丁でそぎ切りにした鶏肉、2つに割って5cmくらいに切ったレモングラス、生姜、生唐辛子を入れ、火にかける。(ぼくはパン切り包丁を使う。すると繊維が壊れて鶏肉がややひき肉っぽい状態になり触感や味に変化がつく)

ココットを火にかける

2ゆっくり火を入れる

ココナッツミルクが分離しないように、沸騰させないくらいの中火でゆっくり火を入れる。

3具材を加える

10分ほど加熱し鶏肉に火が入ってきたら、水、縦方向に2つに切ったヤングコーン、小さめに半月切りしたズッキーニを加え、ナンプラー、砂糖、鶏がらスープで味付けをする。

4ライムを絞る

中火で沸騰直前くらいの状態をキープしながら、また10分ほど火を入れたら茹で海老を加えさっと馴染ませ、ライムをギュッと絞って完成。鶏肉のスープなので海老はなくても良い。

ライムを絞る

このスープは煮込みすぎないことがポイント。なので、材料さえあれば20分ほどで出来上がる、飲みたい時に飲めるスープでもある。しかも、煮込まないので野菜の発色もよく、目にも楽しい食べるスープなのである。

具の野菜はマッシュルームやパプリカなど、お好きなもので。ミルキーなのに酸味のある不思議なスープで、ファンさんの不敵な笑みを想像しながら、もう一つのパリの裏路地の味をお楽しみあれ。ボナペティ!

ライムを絞る

文:辻仁成 写真・協力:モーリヤック・井上美希


https://dancyu.jp/recipe/2020_00003449.html


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にんにくがあとを引く枝豆の簡単おつまみ

味わいが濃く香りが楽しめる、熱々で食べるのがお薦め!

ゆでたての枝豆をつまみながら冷たいビールをゴクリ。これこそ夏の風物詩だという人も多いはず。夏にうれしい枝豆を使ったおいしいメニューをご紹介しましょう。

材料材料 (つくりやすい分量)

枝豆300g
枝豆をゆでる塩少々
和え衣
・ にんにく大1片
・ 胡麻油大さじ1・1/2(香りの強い上質なものがお薦め)
・ 塩小さじ1/2~2/3
粗挽き黒胡椒小さじ1・1/2

1下ごしらえ

枝豆はへたをハサミで切り落としてからよく洗い、塩を加えたたっぷりの熱湯でゆでる。

2和え衣をつくる

和え衣のにんにくはつぶす。ボウルに和え衣の材料を混ぜ合わせ、ヘラなどでにんにくをさらにつぶして油に香りをしっかりと移しておく。

3混ぜ合わせる

ゆでたての枝豆を入れて和え、さらに黒胡椒をふって和えてなじませる。

完成

教える人

植松良枝 料理研究家

植松良枝 料理研究家

料理研究家。季節感あふれる食と暮らしを提案。忙しい合間を縫って、自らも畑を耕しながら日本の四季を大切に思う。それぞれの季節に寄り添いながら、体の養生を考える。日本ならではの和の味だけにとどまらず、世界を食べ歩いた経験をフルに活用したオリジナリティーあふれる料理が得意。『春夏秋冬 土用で暮らす:五季でめぐる日本の暦』(主婦と生活社)、『バスクバルレシピブック』(誠文堂新光社)など著書も多数。

文:中村裕子 写真:野口健志


https://dancyu.jp/recipe/2020_00003446.html


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